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2017-11-30

アンソロジーに寄稿しました。

河内源氏大鑑という河内源氏をテーマにしたアンソロジーに寄稿しました。

源頼義が主役の小説です。

「鳩企画」さま
https://t.co/h3Ynfmndmw

ボリュームたっぷりの素晴らしい本なので、気になった方はぜひ(^_^)/
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2017-11-23

惜春(せきしゅん)

芳子さんに捧ぐ

仁安三年(1168年)の、高倉天皇の即位式を控えた頃。

鶯(うぐいす)の鳴く音がする。
もう、春か。

源通親は、即位式の下準備のために、内裏を訪れていた。
通親は十九才。
三年前の六条天皇の即位式にも参加しているとはいえ、油断は出来ない。
儀式に粗相があっては、家門に傷がついてしまう。
通親には自分が村上源氏の名を背負うのだという、自負があった。

派手好みの上皇と、平氏にゆかりのある華やかな東宮生母の影響か、内裏の様子はことさら煌びやかだった。
埃(ほこり)一つない。
女房や役人の動きも機敏だ。

通親が感心していたそのとき、どこからか笛の音が聞こえた。
まだ拙いが、見所があるような笛の音だ。
呼吸がしっかりとしているし、吹いている姿勢も良いのだろう。
一体、誰が。
通親が辺りを見回すと、稚い少年の姿があった。
七才ぐらいだろうか。
こんな子供が、なぜこの場所に?
通親が不思議に思っていると、少年と目が合った。
少年はかすかに微笑んだ。
はにかみとも違う、可憐で優雅な、高貴な笑み。
可憐、という言葉を少年に使うのはおかしいかもしれない。
だが少年は色白で、華奢で、少女と見紛うほどの美しい容貌であった。
通親の胸は疼(うず)いた。
恋にも似た疼き。
こんな少年に、私ともあろう者が。
通親は焦ってそれをごまかそうとした。
だがこの少年の笑みには、不思議な魅力がある。
守らずにはいられないような、とても神聖ななにか、とでもいえば良いだろうか。
よくよく見ると、高貴な衣装を着ている。
はて。
通親は首をかしげた。

「こら! また練習から逃げ出して」
藤原実国が少年を追いかけてきて、その首根っこを捕まえた。
少年はさっきの高貴な笑みはどこへやら、けらけらと笑っている。
「お師匠さまの話は、長いんだもん」
「講義も重要なんだ。辛抱が足りないにもほどがあるぞ!」
少年は実国殿に甘えているところがあるのだろう。
どこかうれしそうである。
「実国殿、こちらの少年は親族か何かなのですか? なぜこんなところで……?」
「親族? とんでもない! この子は東宮です」
実国が驚いた様子で手を横に振る。
「と、東宮」
もっと驚いたのが通親である。
「東宮に、あなたはこのような態度で接していらっしゃるのですか?」
失礼のないように、慎重に言葉を選んでそう尋ねる。
実国は二八才。
年齢は通親よりも一回り上だった。
実国は言う。
「そう思われるのも無理はありませんね。しかし、これには理由があるのです」
そう言って通親に向かって微笑む。

東宮に待つように言い、実国は静かに語り始めた。
「私には、十二才年上の異母兄がいます。兄といっても早くに祖父の養子になっていましたから、共に育ったわけではありません。ですが親族の集まる場で、一緒になることはありました。そのときの異母兄ー実綱といいますーの私に対する態度には、厳しいものがありました。冷たいような、必死で見下そうとしているような。辛く当たっていたといってもよいかもしれません」
実国はそこで一呼吸置いた。
「はじめはわけが分かりませんでした。私は年の離れた兄に甘えたいのに、なぜ、と。母やまわりの大人に言ったこともありました。ですが母は困った顔をするばかり。ですが私が七才のときに、異母弟が生まれて。この異母弟ーこれは実房と言いますーの母親は父の正妻でした。そのときに、私は幼いながらも理解したのです」
「なにを、ですが?」
なんとなく察しながらも、通親は聞く。
「異母兄が私を目の敵にしていた理由を。同じく、異母弟に嫡男の座を奪われた者として」
「そう、ですか」
「母は家女房で、父に対して従順な優しい人でしたから、誰かを罵ることもありませんでした。ですがよく泣いていました。『一瞬でも、夢を見ていた自分が恥ずかしい。莫迦だった』と。その母を慰めるのが幼い私の役目でした。周囲の人間が、私たちの元から離れて異母弟の元に走るのが悲しくもあり、口惜しくもあり……」
通親はいたたまれなくなった。
実国の言葉を遮って聞く。
「お父上は、どうだったのですか?」
藤原公教。
峻厳な性格だったという、平治の乱の功労者。
「父は、はじめから私を冴えた目で見ていました」
「冴えた目。冷めた目、ではなく?」
遠い目をしながら実国は答える。
「冴えた目、でした。私が嫡男にふさわしいかどうか、見定めようとしているところがありました。安心して甘えられるような存在ではありませんでした。異母弟が生まれてから、父の私に対する態度は庶腹の子供に対するそれになりました」
「そうですか……」
「ですが私は父を恨んではいません」
実国は明るい声音で言う。
「嫡子と庶子の区別をきちんとすることが、父の誠意であり、優しさだと思われるからです」
「それは、少し違うように思われますが……」
「そうかもしれません。が、当事者である私がそう思うならそうなのです。父は『家』を残そうと必死で努力していた人でした。だから、仕方のないことでもあるのです」
実国は自分で言い聞かせるように言葉を反芻していた。
「私は、自分が公教殿と同じ立場になっても、子供を差別するようなことはしたくありません」
まだ子のいない通親は、きっぱりとこのときこう言った。
実国はにやり、と笑って
「それはそれで良いでしょう。が、苦労すると思いますよ」
と続けた。
通親はこほん、と咳払いをする。
「それはそうと、その一件と東宮と、何の関係があるのですか?」
「東宮は、私を兄のように慕ってくれるところがあって。東宮もまた、兄たち(二条天皇や以仁王)に恵まれない人でしたから。それで私もつい弟のように接したくなるのです。私は実房のことを可愛がっているふうを装っていましたが、『こいつさえ生まれなければ……』と思ったことも一度や二度ではありませんでしたので」
実国が伏し目がちに言う。
「異母弟に対する負い目を、東宮との交流によって癒やしている、ということですか」
「そう、ですね」
実国の声がか細いものになる。
「私には実国殿のお家の事情は分かりません。が、羨ましくはあります。あのどこか神聖な魅力のある東宮と、兄弟のような交流が出来るだなんて、と」
通親がそう言うと、実国は顔をほころばせた。
「そうでしょう。あの東宮には、どこか人を惹きつける魅力があるのです。あなたにも、お分かりになりますか」
通親もまた、実国につられてにこやかになる。

「お師匠さまー、まだー?」
待ちくたびれた東宮が、実国を呼ぶ。
「今行くよ」
実国が慌てたようすで声を出す。
「では、また。今日はこれで失礼します。また何かありましたら語りましょう」
通親に、そう言い残して。


それから、二十年。
通親は実国の墓の前に立っていた。
この日は実国の命日だった。
通親の胸に、様々な思いが去来する。
ー東宮だった高倉天皇が即位ののち崩御し、実国殿もまたこの世を去った。
自分の子供を差別することはありませんと、はっきりそう言った若い日のことが懐かしい。
私は結局、実国殿の父親と同じことをした。
嫡子と庶子の待遇を、はっきり分けたのだ。
庶子にされた子どもは、恨み一つこぼさなかった。
実国殿のような心情でいてほしいと願ってしまう自分の身勝手さ、傲慢さには、本当にあきれてしまう。

そして、高倉天皇。
私よりも十も若い帝に、なぜ先立たれなくてはならないのか。
あの日、初めて会ったとき以来、私の心の大部分を占めていたのは、他ならぬ貴方だったのに。
それでも、混乱した京都を見ずにすんだのは、せめてもの救いなのかもしれない。
あのお優しい主上に、戦乱の世は似合わない。
そうでしょう、実国殿?ー

遠くで鶯の鳴く音が聞こえた。
その鳴き声は笛の音にも似ていて、通親の胸を締め付けた。

高倉天皇と初めて会った日、その天皇が崩御した日、そして実国が亡くなった日。
おりにつけて、思い出すのだろう。

あの日も、春だった、と。


*****
通親のこの和歌から着想を得ました。

をしみかねまどろむ夢のうちにさへ暮れぬとみゆる春ぞはかなき
ーーいくら惜しんでも惜しみきれず、うとうとした眠りの中でさえ、春が暮れてしまった夢を見た。こんな夢まで見させる春とは、なんてはかないものなんだーー

旧暦なのでわかりにくいのですが、新暦に直すと高倉天皇の即位した日などはすべて春です。
旧暦・新暦、あと数え年と満年齢、難しい(>_<)
年齢に関しては満年齢の方を採用しています~。

   参考文献
豊永聡美 2017 天皇の音楽史ー古代・中世の帝王学ー 吉川弘文館
野口実(編) 2014 治承~文治の内乱と鎌倉幕府の成立 清文堂
橋本義彦 2017 人物叢書源通親 吉川弘文館

   参考サイト
「千人万首」さま
http://www.asahi-net.or.jp/~sg2h-ymst/yamatouta/sennin.html
プロフィール

ゆきめ

Author:ゆきめ
ブログタイトル:しおんのいだしぎぬ。

日々のこと、趣味について語りたいと思います。
心理学、西洋占星術、歴史(主に院政期)など。
よろしければおつきあいくださいませ☆

2012年11月6日ウェブリブログから移行しました。記事の上にある参照数とブログ気持ち玉はウェブリブログのときのものをそのまま載せたものです。

公募小説の投稿などは「遠野紗雪」という名前を使っています。
note、「小説家になろう」サイトにも投稿しています。

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